大判例

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仙台高等裁判所 昭和25年(ネ)207号 判決

控訴代理人は「原判決を取り消す、被控訴人の控訴人に対する昭和二十四年十二月二十七日附復第百八十七号移転命令を取り消す、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張は、控訴代理人において法律上の見解として、

特別都市計画法施行令第四十五条はその規定し得べき範囲外の事項を規定したもので違法である。同令第四十五条但書は特定の時期までに権利の種別及びその目的たる土地の所在を届出でない借地権者に対しては、換地交付の指定を必要としない旨規定しているのであるが、これは人民の権利を制限する事項であるから内閣法第十一条により法律の委任なき限り政令では規定できないであるから日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律第一条により昭和二十三年一月一日以降は効力をを失つたものである。従つてこの失効した規定に基いて被控訴人が移転命令を発したものとすれば違法であつて、取消を免れない。と述べ、被控訴代理人において

控訴人の前段の見解には賛同し得ない。即ち特別都市計画法は耕地整理法第三十三条を準用しているが、同条は「従前の土地の全部又は一部に付既登記の所有権以外の権利又は処分の制限あるときはこれに対する換地の交付はその権利又は処分の制限の目的たる土地又はその部分を指定してこれを為すべし」と明らかに「既登記」とあつて、本件の如き「未登記」の所有権以外の権利、即ち借地権までも包含していないのだからかような借地権に対する指定を行わないのが本則である。然るに、特別都市計画法施行令第四十五条は一定条件の下に、進んでこれらの未登記の権利にまで恩惠をたれんとするものであつて、同条但書の「但し第十条の告示のあつた日から一箇月以内に権利者が権利の存する土地の所有者と連署し、又は権利を証する書類を添付し、書面を以て整理施行者に権利の種別及びその目的たる土地の所在を届出ない場合はこの限りでない。」の規定は単なる恩恵の条件にすぎない。

元来指定を受くる権利のないものに指定を受くる恩恵を与えるのだから、恩恵の条件を規定したとて、この条件を以て直ちに「義務を課し、権利を制限した」ものとは言えまい。他面この恩恵を施したことは所有者に対して「義務を課し、権利を制限した」結果ともならないのだから内閣法第十一条又は日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律に違反するものではない。と述べたほか、事実上の主張及び証拠の提出、認否関係は原判決摘示と同一であるから、ここにこれを引用する(原判決添附建物目録を含む)。

三、理  由

控訴人が訴外緑樹合資会社所有の仙台市東四番丁十八番宅地内に原判決添付目録記載の建物を所有すること、被控訴人が右宅地を訴外高村誠の所有地に対する換地予定地として指定し、同会社に対し右換地予定地指定の旨を通知し、且昭和二十四年四月十八日附で同日を使用開始の期日とする旨を通知したこと、昭和二十四年十二月二十七日附被控訴人から控訴人に対し右建物を昭和二十五年三月二十六日(原判決事実摘示の三月六日は誤記と認める)までに移転すべき旨の移転命令を発し、この命令書が同年二月初旬控訴人に到達したこと、被控訴人が右移転命令を発するに先立ち控訴人に対しては右建物敷地の換地予定地を指定しなかつたことは当時者間に争がなく、本訴の争点は被控訴人が控訴人に対し右建物敷地についての換地予定地を指定することなく、同人に移転命令を発したのは違法であるかどうかにある。よつて以下この点について判断する。

特別都市計画法第十五条によれば行政庁が同法第五条第一項の土地区画整理のために必要があるときは、その施行地区内に存する建築物その他の工作物について一定期限を定めて所有者に対してはこれらの工作物の移転を命じ、占有者に対しては立退を命ずることができ、右工作物の移転を命ずる場合には、同法第十三条第一項による換地予定地を指定しなければならない。ところで特別都市計画法第五条第一項の土地区画整理についても都市計画法第十二条第二項により別段の規定のある場合を除いて耕地整理法の規定が準用されるのであるが、耕地整理法第三十三条は従前の土地の全部又は一部につき既登記の所有権以外の権利又は処分の制限あるときは、これに対する換地の交付はその権利又は処分の制限の目的たる土地又はその部分を指定してこれを為すべき旨を規定し、未登記の所有権以外の権利に対しては、換地の指定を行わないのである。然るに特別都市計画法施行令第四十五条は一定条件の下に未登記の所有権以外の権利についても右耕地整理法第三十三条を準用する旨規定し、以て未登記権利者を保護している。即ち同令第十条の告示のあつた日から一ケ月以内に権利者が権利の存する土地の所有者と連署し又は権利を証する書類を添付し、書面をもつて整理施行者に権利の種別及びその目的たる土地の所在を届け出でるときは換地の指定を受けることができることにした。本件において控訴人が前記建物の敷地について登記した権利を有することの主張立証はなく、被控訴人は昭和二十三年八月三十日本件土地区画整理施行地区を告示し、控訴人は右告示のあつた日から一ケ月以内に自己の権利を届出なかつたことも当事者間に争がなく、被控訴人が本件移転命令を発するに先立ち、控訴人に対し換地予定地の指定通知をしなかつたのも右の事由によるものであることは被控訴人の主張に徴し明白である。

ところで特別都市計画法(以下単に法という)第十五条第二項にいわゆる第十三条第一項による換地予定地の指定とは当該整理の目的たる土地に換えて将来その土地の所有者及びその他の権利者に交付することに予定された土地を指定することであつて、所有者以外の者で換地の交付、従つて換地予定地の指定を受け得る者は、法第十三条第一、二項、耕地整理法第三十三条、特別都市計画法施行令(以下単に令という)第四十五条等の規定に徴し、既登記又は令第四十五条によつて届出でた所有権以外の権利者(地上権、賃借権、小作権又は質権等を有する者)と解すべきであつて、未登記の所有権以外の権利者でしかも令第四十五条による届出をしなかつたものはこれに含まれないものと解するのを相当とする。地上に建物その他の工作物が存するからといつてその所有者が土地に対して権利を有するかどうか、どんな権利をもつかというようなことは必ずしも明白であるとはいえず、多数の関係者の存することを通例とする土地区画整理の事業において整理施行者に未登記権利者の有無、その権利の性質内容等の調査を期待することは至難のことであるところからみても控訴人の所論に賛同することはできない。要するに控訴人所有の本件建物の敷地につき法第十三条第一項による換地予定地が指定されたことは前記のとおりであるから、本件建物の敷地についての権利につき登記がなく、且前記の届出をしなかつた控訴人に対して換地予定地指定の通知がなく、また控訴人の使用している土地の部分について特に換地予定地の指定がされなかつたからといつて控訴人に対する前記建物移転命令が違法であるとはいえない。この見解に反する控訴人の主張は採用し得ない。

次に控訴人は令第四十五条の規定が既に失効していると主張するのであるが、前に説明したように同令は整理の目的たる土地の全部又は一部につき既登記の所有権以外の権利を有する者に対する換地の交付についての耕地整理法第三十三条の規定を未登記の権利者に準用することによつて所有権以外の未登記権利者の利益を保護する趣旨の規定であつて、内閣法第十一条にいわゆる義務を課し又は権利を制限する規定ではない。即ち整理の目的たる土地に対する未登記権利者でも令第四十五条但書の届出をすることによつて既登記の権利者と同様の利益を受け得ることとしたに外ならないのである。もしこの規定がないとすると都市計画法第十二条第二項により、耕地整理法の規定が準用される関係上同法第三十三条により既登記の権利者でなければ換地の交付が受けられないことになり却て未登記権利者に不利益なる結果となるであろう。のみならず元来換地の指定交付(換地予定地の指定も同様)は行政上の措置たるに止まり、その指定交付の有無によつてその土地に関する実体上の権利関係が設定されるわけでもなければ消滅するわけでもないことはいうまでもない。要するに令第四十五条の規定は決して未登記権利者に義務を課したものでもなく、また法律によつて与えられた行政上又は私法上の権利を制限したものでないのであつて、このことは同条の趣旨内容からみても明白というべきである。従つて同条が内閣法第十一条、日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律第一条によつて効力を失つたとする控訴人の主張も採用し得ない。

以上の次第で控訴人の本訴請求を棄却した原判決は正当であつて本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 村木達夫 猪狩真泰)

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